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ペパーミント・キャンディー評論(20)
巻き戻しの手法は好き。雨を一緒に眺めた女のエピソードとか意味もなく沁みたし、前田のアッちゃん的ヒロインも好み。だけれど。
主人公が弱すぎ、だらしなさすぎ、情け無さすぎ、キレすぎ、ヒス起こしすぎ。というか人格変遷が都合良すぎな割に魅力が無くて辛かった。
日本映画に昔よくあった、人気作家の長編大作を女優さんの裸で集客する類の作品と同じ匂いがして、勘弁してよ、でした。1ミリは泣けた。
世相、現代史に突っかかる事なく、サラリとストーリーに取り入れているところは好感持てました。
逆再生の構成、おもしろかった。エピソードだけ見ると、たとえば1999年のピクニックから、まず20年前のピクニックにとんで、そこから順を追って現代に戻る、という流れでも成立するかもしれないけど、それだとまったく、印象が違ったはず。逆再生だからこそ、切ない。
エピソードが変わるごとに主人公のことを好きになったり嫌いになったりした。「この人最低だな」と思うけど、次の瞬間には温かさを感じたり…。善人とか悪人とか単純には決められない。人は良くも悪くも、人との出会いや、社会情勢、突然巻き込まれる事件やトラブル、そういういろんなものに翻弄されて、影響を受けて変わっていく。人生の奥深さを感じさせられた。
なので今回の主役は、あの映画の青年がそのまま歳を重ねた姿なのかなと思うほど、ダメダメっぷりを引き継いでいるように思いました。
ところがところが、時間を遡り、いちばん若い頃のピクニックの場面と比較すると全然違います。
爽やかな、花を愛でる好青年。
そのギャップが凄い。
後に、まるで北野武映画がしっくりくるような、あの狂気じみたチンピラになるなんて。
着実に人格が変わっていきました。
2回見ると、どうしてそんなふうに変わってしまったのかが、より味わえて面白いと思います。
演じているソル・ギョングの演技力に魅了されっぱなしの2時間でした。
人生の分岐点を追い続けた映画だと思います。
あんなに深い傷はなくとも、きっと誰にでも「あの時…」と別の道を選んでいればと 悔やむ瞬間があったはず。
結論なんて何も出ない、ハッピーエンドにもならない映画だったのですが、なんかこう主人公に愛着が湧く不思議な作品でした。
映画は、79年の朴正熙暗殺から始まる軍事政権から、97年の通貨危機後の韓国経済が落ち込んだ99年までを、一本のレールで繋ぎ、時間をさかのぼる形で描かれています。
ピクニックは79年4月なので、10月朴正熙暗殺から始まる暗黒時代の少し前ということになります。
終盤、ピクニックの場所に、前に来たことがあるというヨンホに対し、「夢で来たのよ。良い夢ならいいけど。」とスニムによって、これから始まる韓国の暗黒時代が逆説的に予言されます。
そしてそれを悟ったかのようにヨンホは涙を流し映画は終わります。
『ペパーミントキャンディ』のように韓国の現代史を総括して描かれた作品には『国際市場で逢いましょう』などがあったり、また、1980年代を描いた作品として『タクシー運転手』や『1987』などがありますが、これらの作品は映画としてエンターテイメント化されていると思います。
それに対し、『ペパーミントキャンディ』は、時代の記憶がまだ生々しい時期に制作された映画だからか、救いがなく非常に重い作りになっています。
すごい映画でしたが、観るのに体力がいる映画でした。