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マルモイ ことばあつめ評論(20)
時は1930年代から40年代へと。日本語を話すことを強要されながらも自分たちの言葉を守ろうとする人たちがいた。多数存在する方言をかき集めて全国統一の辞書を編纂するという高い志があった。
優れた脚本とユ・ヘジンの名演で感動的なドラマが生まれた。館内のあちらこちらから嗚咽が聞こえてきたのも久しぶりだった。しかし荒んだ自分には少しいい話過ぎたのかも知れない。
特に楽しみにしていた
「マルモイ ことばあつめ」を
先週の土曜に鑑賞
当日のスケジュールの関係で朝一の回の鑑賞だったので、きちんと見届けられるかちょっと心配もあったけど、135分間、笑いあり、涙ありで朝からとっても良い時間を過ごせました。
1940年代の日本統治時代の朝鮮、京城が舞台。
日本統治下なので当然なんでしょうけど描かれる街並みはなんだか懐かしさを感じる造り。
大人も子供も普通の暮らしを営んでいるように見えてもそこにあるのはやはり統治下の生活。監視とか弾圧が激しい社会なんですよね。
そんな社会のなかで自分達のアイデンティティを守ってゆくために奮闘する彼らの姿が時に勇ましく、時にほっこりとさせてくれて、
途中からその姿に涙が止まらなくなり、涙につられて鼻水も垂れ流し状態になるほど心揺さぶられました。
この作品、「タクシー運転手 約束は海を越えて」の脚本を書いたオム・ユナが初監督し脚本も担当。
「タクシー運転手」も笑いを盛り込みながら人々の連帯する姿と事件をきっちり描くところが素晴らしかったですけど、本作品でも人々の助け合いの気持ちやいたわる気持ちから生まれる連帯感が上手く描かれていて脚本の良さを感じました。
脚本の良さに加え、役者さんたちが素晴らしい。
パンスを演じるユ・ヘジン、相変わらずインパクトのあるお顔なのに色々とカッコいい。ほんとユ・ヘジンありがとうって言いたくなりました。
パンスの子供のスンヒちゃんの笑顔がまたたまらないんですよ。癒されたなぁ~
「愛の不時着」で北朝鮮の村の人民班長役だったキム・ソニョンも大切な役だし、「パラサイト」のイ・ジョンウンもちょいと出てくるし、たくさんの役者さんを見ているだけでも楽しめます。
自分、割りとよく泣くほうなのでバスタオルが必要でしたけど、タオルとまでいかなくてもちょっと厚めのハンカチは必須じゃないかと思います。
「タクシー運転手」の脚本家が、脚本・監督ということで間違いのない安定の面白さ。深刻な自国の歴史をエンターテイメントとして昇華することにかけては、韓国映画は今やハリウッドを凌いでいる。
そして言語や名前を押しつけることで民族の文化を破壊するのが植民地政策のひとつの王道であるのは、アフリカ各国が英語やフランス語を公用語としている現在から振り返ってもよく分かる。日本も当然のようにそうしていたのであり、それに抵抗していたまさにこの映画の登場人物のモデルたちは実に聡明だったのだね。
この作品は主人公にユ・ヘジン演ずる底辺の人物を据えることでユーモアたっぷりにそれを描き出している。
こういうのを文化と言うのですよ。
この映画のレビューにすら涌いている、歴史を修正し、なかったことにしようとするネトウヨ達に、そうした史観が却って日本を貶め日本文化を貶めているのだと気付けるほどの知性があると良いのだけど…
一見、反日的に受け止められがちな物語設定ですが、個人的には、反日的意図は感じられませんでした。
一方、本作品は、文化から育まれる人々の精神をどう守り、育てるかを問うものだと認識しました。
現在(2020年8月時点)、香港で繰り広げられている言論弾圧のように、人々の自由意思や意思決定権をを制限することに、『NO』と訴えるような作品です。
一部に、『史実と異なる』との批判があるようですが、『史実』は捉え難いものですので、私は史実に忠実かどうかで評価はしないようにしています。
史実かどうかは少し横に置き、この作品の伝えたいメッセージを少しでも多くの方が考察・共感してくれると良いと思います。
追伸
コロナ禍で新作映画の公開が見送られつつあるなか、本作品(2019年公開)のような隠れた名作を公開する映画館が増えることを祈ります。