「ツィゴイネルワイゼン」(1980)、「陽炎座」(81)に続く鈴木清順監督の「浪漫3部作」の完結編で、大正から昭和にかけて活躍した画家・竹久夢二の半生を幻想的に描き出す。恋人の彦乃と駆け落ちするため夢二は金沢の湖畔へやってくるが、そこに彦乃は現れず、さらには静かで小さな村に突然の銃声が鳴り響く。妻を寝取られた男・鬼松が、妻と妻を寝取った男を殺して山に逃げ込んだようなのだが……。夢二役は「カポネ大いに泣く」(85)に続き清順監督作の主演となった沢田研二。2012年、「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」とあわせてニュープリントでリバイバル上映。2023年には鈴木清順監督生誕100年を記念した特集上映「SEIJUN RETURNS in 4K」にて、4Kデジタル完全修復版で公開。
夢二評論(7)
前二作と違って原作がないオリジナル脚本だからかもしれないが、何となく勝手に期待している、現実と虚構が入り乱れるような摩訶不思議なものが足りない。もちろんあればいいというわけではないのだが、虚構によって登場キャラクターが何かに飲み込まれていく様が薄く、つまりそれは作品からにじみ出る熱量不足に直結してるように思える。
わかりやすく言えば、これまであった、強い感情からくる極端な行動というのがない。もっと具体的に言うならば、作品から「死」の匂いを感じないのだ。
浪漫三部作は、愛情と、そこから付随する死、つまり愛と死の物語だと思う。
本作「夢二」も前二作同様に愛と死がテーマといえるが、爆発的に訴えてくる力強さがない。
あくまで前二作との比較になってしまうけれど、一番大事なキャラクターである主人公夢二に魅力がない。
得体のしれないものに飲み込まれていく、狂気に似た不安感がない。
死に怯え、死を愛する、逆にいえば「生」を存分に満喫している感じが夢二にはない。
夢二の生きること、夢二の場合は絵を描くことに対する情熱描写が足りてない。
つまり、ただのおちゃらけた女たらしにしか見えないのだ。
それでも、前二作と比べて表面的なストーリーのわかりやすさは群を抜いている。観やすさという点では悪くないかもしれない。個人的には物語のわかりやすさなど求めてないのでプラスに作用しないが。
あとは、夢二ではなく演じた沢田研二を魅力的に魅せるというところはいいんじゃないかと思う。肝心の夢二というキャラクターに魅力がないのでなんとも複雑ではあるけれど。
観やすくわかりやすくなったことで前二作にあった不穏さ不気味さが薄れ、結果として平凡で退屈な作品になってしまったように思える。
つまらないとは言わないけれど、目を見張る魅力的な部分もない。前二作が面白かっただけにかなり肩透かしを食った気になる。