《モルエラニの霧の中》北海道室蘭市の美しい風景とともに失われていく街の記憶をめぐる物語を、7話連作形式で描いた作品。タイトルの「モルエラニ」は、北海道の先住民族であるアイヌの言葉で「小さな坂道をおりた所」という意味で、室蘭の語源のひとつとされている。街で出会った人びとから聞いた実話をベースに、5年の歳月をかけて撮影。
第1話・冬の章「青いロウソクと人魚」
第2話・春の章「名残りの花」
第3話・夏の章「しずかな空」
第4話・晩夏の章「Via Dolorosa」
第5話・秋の章「名前のない小さな木」
第6話・晩夏の章「煙の追憶」
第7話・冬の章「冬の虫と夏の草」
の7つの物語から構成され、地方都市に生きる人びとの姿が優しいまなざしで描かれる。大杉漣、大塚寧々、香川京子、小松政夫、水橋研二、菜葉菜らのほか、室蘭の地元の人びともキャストやスタッフで多数参加している。監督、脚本、音楽は長編デビュー作「美式天然」で第23回トリノ国際映画祭グランプリと最優秀観客賞を受賞し、東京から室蘭へと移住した坪川拓史。
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モルエラニの霧の中評論(2)
エンタメじゃないのに、いくらなんでも長すぎるだろう……と思い、
修行のつもりで観始めたのだけれど、次第に引き込まれた。
第3話「夏の章」のエンディングで流れた「しずかな空」のメロディと歌詞が
今も耳に残っている。目を閉じると、室蘭の美しい風景が浮かぶ。
急逝した大杉漣さんの最後の時が、映画のシーンに重なる。
人生の秋に入ったという自覚のある人が観れば、きっと胸を突かれるはず。
若くても、大切な人やものを失ったことがあるなら。
室蘭生まれの坪川拓史監督は1990年に上京し、初長編「美式天然」のトリノ国際映画祭グランプリと最優秀観客賞をはじめ内外の映画祭・映画賞で高く評価されてきた。2011年に室蘭へ帰郷し、本作の撮影を2014年に開始して5年越しで完成させたという。在りし日の小松政夫さんと大杉漣さんの味わい豊かな演技が収められた点でも感慨深い。
個人的にも母方の親戚が室蘭にいる関係で何度か訪れたことがあり、イタンキ浜や室蘭港などで撮影されたシーンに懐かしさがこみ上げた。一方で予告編にも登場する「崎守町の一本桜」など知らなかったロケ地も多く、室蘭のさまざまな魅力が詰まった映画を作ってくれたことへの感謝をすべての関係者の方々に申し上げたい。