戦場を舞台にして、若夫婦のささやかだが愛情にみちた家庭生活を描く。75年4月のサイゴン解放後、同市(現在のホー・チ・ミン市)に創設された総合撮影所で作られた映画で、解放後の南ベトナムで製作された映画が日本で上映されるのは、これが初めてである。81年度モスクワ国際映画祭金賞、批評家大賞を受賞している。監督のグェン・ホン・センは解放戦の記録映画を撮りつづけた人物で、長編劇映画は「季節風」(79)に続く二作目。今39歳で、この映画のヒロインを演じるグェン・トゥイ・アンは彼の妻である。脚本はグェン・クァン・サン、撮影はズオン・トゥアン・バ、音楽はチン・コン・ソン、美術はフィン・キム・ゴクが担当。出演はグェン・トゥイ・アン、ラム・トイ、グェン・ホン・トゥアン、ダオ・タイン・トゥイ、ロバート・ハイなど。
無人の野評論(1)
ヘリが接近してきたら潜るしかない。赤ん坊をビニール袋に入れて潜る夫婦。戦争というものが最初からそこにあったかのように当然のごとく逃げ隠れるのだ。全編白黒映像で自然の美しさも感じられず、混沌とした戦況下での生きることだけが使命であるような思いが伝わってくる。
主人公の夫バー・ドーが最後に殺されてしまうが、その仇を妻サウ・ソアが討つ。よちよち歩きの彼らの赤ん坊と、子供の写真を抱えて死んだ米軍兵士との対比がなんともいえない無情感を醸し出していた。