耳の聴こえない両親から生まれた耳の聴こえる子どもたち「コーダ(CODA=Children Of Deaf Adults)」にスポットを当てたドキュメンタリー。ドキュメンタリー作家・松井至が監督を務め、15歳という多感な時期にいるコーダたちの3年間を追う。学校では“障がい者の子”として扱われ、ろう者からは「耳が聴こえる」という理由で距離を置かれるコーダたち。そんな彼らが唯一ありのままの自分を解放できるのが、年に一度の「CODAサマーキャンプ」だ。キャンプを終えた15歳の子どもたちは、自身の進路を決める大切な時期に入る。「ろうになりたい」という欲望に突き動かされ、聴力に異変を感じるナイラ。ろうの母から離れて大学へ行こうと葛藤するジェシカ。音のない世界と聴こえる世界の間で居場所をなくしたコーダたちが、揺らぎながらも成長していく姿を描き出す。
私だけ聴こえる評論(2)
オンライン試写会に応募したら当選しました。趣旨的にまだ(正規に)公開されていないのでネタバレは少なめに行きます。
とはいえ、80分ほどの内容でドキュメンタリーに近い映画なので、ネタバレという概念が観念しづらいですが…。
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なお、オンライン試写会の後のオンライントークショーでも述べられていたように、(今回の試写会の映像に限らず)映画館公開時には「バリアフリー上映であること」がちゃんと述べられていました。
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去年、いろいろな賞を取った「CODAあいのうた」は、作品としては賞を取ったように良い作品でしたが、肝心の「コーダ当事者の考え方」や「コーダ当事者の職業選択の自由など」、さらに広げていえば「ヤングケアラー問題」という点が薄かったのが、個人的には残念だったところです。
こちらの作品は、もっぱらコーダ当事者に目線をあてて描かれています。日本ではまだ「コーダ」という考え方が浸透しておらず(もっぱら、ヤングケアラー問題に吸収されている)、やっと去年の映画で少し浸透したかなというところですが、福祉行政が日本より進んでいるアメリカではもっと豊かだし、コーダキャンプ(コーダ当事者だけが集まって、色々話し合いをするキャンプのこと)など、日本では余り窺い知ることができない文化についても結構触れられています。
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さて、この映画の中で、当事者が「ろうに生まれてくればよかった」という趣旨の発言をするところがあります。これはおやっと思うところもあるかもしれません。ただ、それを「おやっ?」と思うのは「ろう者が普通でなく、聴者が普通」という「ある意味で謎の」常識論が勝手に働いているにすぎません。もちろん、(日本でいえば)戦後間もない混乱期であればまだ話は違いますが、これだけ医療も福祉行政も発達している中で、さらにコミュニケーションに難を抱えたり、またヤングケアラー問題も入ってきますので「ろうに生まれてきてよかった」というのは、一見すると不謹慎な発言にも見えますが、これにはこれなりの意味があるのです。
※ 映画の舞台は大半アメリカですが、コーダがいる家族に対して、「このままだと家族が成立しなくなるから、職業はこれにしなさい、大学には行くな」と行政が口をはさむことは(日本と同じように)無理だし、一方でそれを全面に押し出して「コーダの一人の基本的人権」(日本の憲法に相当する概念)を前面に押し出すと、「じゃ、当事者の面倒は誰が見るの?」ということになるので、結局、行政が合理的理由をつけて福祉行政ないし生活保護法などにつなげるしかない(逆に言えば、それくらいしかできないし、そうしないためにコーダの職業選択権や進学する権利を奪うことは、行政にはできない)わけです。
この映画ではこの点についても(国も違いますので、法律も違いますが)少し触れられています。
確かに「CODAあいのうた」は賞を取ったように良作でしたが、ここでも「当事者の方に対する問題提起が何もない」という意見もあったのも事実で(それでも賞は取れた)、この部分を(80分という短い中で)補ったこの映画は、両方見るのも良いのではないか…と思えます。
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(加点3.0) 要は結局、この手の映画は一番まずい類型がただ単に「お涙ちょうだい」ものの謎のストーリー(医学的にも説明も描写もいい加減)であるのであり、この映画のようにドキュメンタリー映画であれば「信ぴょう性」はかなり増します(性質上、「顔は出せません」という方は出ません)。
そうであれば、「CODAあいのうた」が賞を取ったことは事実としても、ここでも言われていたように「コーダとは何か」「コーダの職業選択の自由の在り方」といった部分に触れている本作品は評価が高いということになります。
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